「花は咲くか」に見る父親殺し1桜井さん編。
花は咲くかには、背景に、大きなテーマとしての「父親殺し」の匂いがします。
父親殺しの意味は、諸説ありますが、ここでは簡単に、父親を乗り越える、ぐらいに受け取ってください。
憂鬱な朝も、そうですね。
でもこれって、BLとしては案外珍しいと思います。
BLの作家さんて、ほとんどが女性だし、読者も大半女性なので。
男の子の自立の儀式としての「父親殺し」よりも、女の子が大人の女性になるにあたっての「母の呪縛の解除」をテーマとしたものが、圧倒的に多い気がします。
代表的なのは、BL小説の金字塔、タクミくんシリーズ。
トラウマ持ちの主人公が、スパダリと恋に落ちて立ち直る系のストーリーは、大体これー母の呪縛の解除ーだと思います。
ちょっと異色ですが、鬼と天獄も、母の呪縛が関わってるお話しですよね。
とにかく「父親殺し」がテーマになってるって、BLとしては本当に珍しくて。
だけど、少年漫画では、父親殺しがテーマになっている作品は、むしろ超正統派。
男の子をリアルに描くと、きっとそうなるんでしょうね。
今回はそんな、リアル男子の自立の儀式「父親殺し」について書きたいと思います。
蓉一の方が、分かりやすく描かれていますが、まずは桜井さんから。
桜井さんは、冒頭でいきなり、
“女に出ていかれるの これで何人目だ”
ってモノローグがあって、どうやら、数えきれないほど女性に出ていかれた経験がおありらしいですね(笑)
このルーツというか、これ自体がどうやら世代間連鎖だったんだな、と分かる発言が、4巻初H後のピロートークで出てきます。
物心ついた時から 俺には母親がいなくて…
(中略)
親父に似てきちゃったなーって思うんだよな
仕事ばっかりして自分のことばかり考えちゃって
寂しい時だけ誰かをーー…
どうやら、お父さんも、“女に出ていかれ” た人なんですね。
んで、仕事中毒で、自分の事ばっかり…
桜井さんは、やっぱりお父さんの生き方を、どこかでなぞって生きてきたわけですね。
本来ならその辺りは、反抗期にクリアすべきところですが、桜井さんの場合、父親が家にいないので、やり残しちゃったんでしょうね。
思春期課題のやり残しは、30代にやり直すという例も多いですが、桜井さんの場合、大学生の頃にお父さんが他界したことで、それもやりそびれたまま。
その上、一人っ子だと、ただでさえ家全体が、その子中心になりがちな上、おばあちゃんに育てられてることで、尚更、“合わせてくれて当然”の女性像ができあがったんでしょうね…。
考えたらこの人、蓉一よりよっぽど問題ありな生育歴なんですよね。
でも多分、おばあちゃんあたりが優しかったんだろうなって思うのは、基本的な人格が、そこまでやさぐれてないというか、本音の底には、人として真っ当さを持っているから。
そんな桜井さんの、やり残し思春期課題として、作中にはっきりした形で提示されているものとしては、大きく2つ。
1 他人、特に恋愛関係にある女性には、自分に合わせてくれるのが当然と思っている
2 他者を信頼して、仕事を任せるのが難しい
この、1の方の課題を、作中では蓉一に突破されるんですよね(笑)
蓉一は男の子だから。
恋人だからといって、その主体性を尊重しないわけにいかないって、初めて気づいて悶々としていたところへ。
例の一撃ですよ!!
“ならついてきてくれんのかよ!”
に対して、間髪入れずの、しかもパワーアップしての、
“いやですよ!”
あの時の桜井さんの
“……は?”
が。
何度読んでも……申し訳ないんだけど……ちょっと痛快(笑)
この人、恋人(しかもこんなに年下の!!)からこんな反応されたの、生まれてはじめてだったんだろうな(笑)
きっとそれまで付き合ってきた女性は、桜井さんの“合わせてくれて当たり前”と、“実のところそこまで愛されていない”事に疲れて、次々出ていっちゃったんでしょうね💧
この時も多分、蓉一が女の子だったら、ここで終わっちゃうと思うんです。
どんなに好きでも、それはそれ。
なんで合わせてくれないんだよって、事あるごとにイライラしちゃうだろうし、桜井さんほど仕事のできちゃう男性なら尚更、女の人にあそこまで馬鹿にされたらもう、その先の関係を続けていくなんて無理だと思う。
母親(桜井さんの場合は祖母ですが)との関係って、男女関係になったときに如実に表れますからねー(笑)
どんなに好きで、悩んではいても、本音のところでは自分に合わせてほしい桜井さんに、蓉一は、全く合わせない。
どころか、真っ向から逆らってくる。
その上、仕事の姿勢までずけずけと批判してくる(しかもその内容が、ちょっと前まで心当たりがあるので二重に痛い💧)とか、男のプライドを平気で逆なでしてくる。
ーー繰り返しますが。
間違いなく、桜井さんほど“デキる男”に、女性がこれやったら、アウトだと思います。
でも、蓉一は男の子だから。
どんなに頭にキたとしても、女性に言われる程には、プライドは傷つかない。
年下だとしても、根本的に、対等な他者だと思っているし、それに。
初めての、本気の恋だからね💕
ちょっとぐらい、プライド傷ついたって、頑張るしかないですよね💕
まぁでも、それにしたって、38年間の生き方を変えるわけだから、それはそれで、すごく、エネルギーのいる事だと思います。
例えば思春期だったら、先生だとか、先輩とか、親友とか、その辺から、ステップアップを助ける援護射撃が来るのが理想的ですが…桜井さんて、どうやら友達いないんですよね(笑)
この辺、藤本とかちょっと似てて、要領イイから適当な付き合いはできるけど、親友はいない、みたいな。
しかも、あれだけワーカホリックだと、学生時代の友達とか、続いているとも思えないし。
仕事でも、同年代では多分トップクラスだろうし、桜井さんが、認められたいと思うほどの上司が、周りにいる様子もない。
んで、柏木さんの出番と相成った訳ですね!
彼は、本当にキーパーソンなので、映画で削られちゃったのが本当に残念。
桜井さんが、作中唯一、自分なんかが逆立ちしても敵いっこないと思っているらしき、レジェンド柏木さんに、本気のハンティングを受けたことで、一気に前に進み始める……っていう、この辺の流れも、本当に、男性的というか、リアルというか。
女性は一般に、愛されて前に進める生き物ですが、男性は、前に進む力をくれるのは、最終的にはやっぱり仕事って人、多いと思うんですよね。
桜井さんほどのワーカホリックなら、なおさら。
そう言えば桜井さん、最初に仕事のやる気を取り戻すのは、本気の恋の自覚がきっかけでしたが、これも、この時はまだ片想いだと思っていて、それでも、一方的に愛するだけでやる気が出るのは男性っぽいなって思います。
本当はーーーずっと誰かを好きになりたかった
優しくされたかったし側にいて欲しかった
優しくされたいより、側にいてほしいより、“愛したい”が、先に来る。
日高ショーコ先生方は、お二人とももちろん女性なので。
物語のそこここに、女性的な感性が満ちているのですが。
それでもこういう、物語の核の部分にリアルな男性像があることで……なおさら。
きゅん💕
となっちゃうわけですよ💕💕💕
腐女子はさ💕💕💕
ーーところで皆さん。
お気づきでしょうか?
桜井さんは、思春期課題2については(少なくとも5巻の半ばまでは)しっかり越えた、とは、言い難い様子なんですよね。
下に任せることを覚えないとこの先苦労するぞ!
って、柏木さんに説教されてますし(笑)
初夜から一年半経っている最終回でさえ、蓉一が、
休みなんて取れないくせに…
とか、言われてますし(笑)
この先、柏木さんの指導の下で、その辺ぜひ、叩き直してもらったら良いと思います(笑)